涼宮ハルヒの石川

石川さえあれば

本当にヤバい石川の脆弱性4つ

の続きです。

家が教会だと､いろいろな人が出入りし､楽しいこともあったが､天真爛漫ではいられなかったこともあった。

だまされて連れて来られたと思われるフィリピン人の女性が、家に来て泣いていたことがあり、小さい私の妹が「かわいそうだ。」と言って一緒に泣いていたことがあった。

求道中の婦人をかくまっていたこともあり、逆恨みをしたご主人が、のこぎりを持って出て行ったと連絡があり､｢ここに来るかもしれないから。｣と、いつでも逃げられるように、裏口に靴を置き､洋服を着たまま寝たこともあった。

洋服といえば､新品のものはほとんど買ってもらった記憶がなく､食べ物もトマトばかり食べていたり､おやつには割れた煎餅ばかり続くと､｢家って､貧しいのかな。｣と思ったものだった。

長女の私は、親の懐具合を敏感に確認するようにしていたし、経済的に迷惑を掛けてはならないと自分に言い聞かせるような思いがあった。

私の小さい頃は、時代そのものも､豊かさに向かってはいたものの､まだまだ質素で貧しかったのかもしれない。

中学に入る前､私は父の礼拝説教を聞く中で､イエス・キリストを信じる決心をした。

父は､中学３年の時､家が破産し､夜逃げをした経験がある。高校２年生の時に最愛のお母さんが亡くなった。

病床の中､３９歳の若いお母さんは、お医者さんに向かってこう言ったそうだ。「先生､私だけは助けて！子供を残して､まだ死ねないんだから。」

父は５人兄弟の長男で､高校生だった父に向かって､お母さんは「息子か。楽しみにしているんだから。」と言ったそうだ。

崩壊家庭に育った父が悪に走らなかったのは､この時のお母さんの言葉があったからだという。

その時の事と､イエス・キリストの十字架の話がその日の説教だった。

私は二つのことを考えた。

一つは「私も､このまま何となく生きていくなら､必ず「まだ死ねない！」と言うだろう。」

もう一つは､「イエス・キリストというお方は､私の罪のために十字架にかかって下さった。身代わりとなって死んで下さったほどに私を愛し､『あなたの事を楽しみにしているんだから。期待しているんだから。』と言って下さる！このお方を信じていこう！」

その年、中学一年生のクリスマスにバプテスマ（洗礼）を受けた。

クリスチャンとなった私は､少しずつ明るくなり､友達も増えた。千人を越す大きな中学校で､一番目立つグループの子達とも友達になり、当時､校内暴力やいじめが騒がれていたが､私はいじめられることもなく、人間関係もうまくいっていた。

教会にもたくさん来てくれた。ところが、友達に流されてしまい、私は悪いと分かっているような事もするようになっていった。

そして､「私は､もともといい人ではないし､いい人にもなり得ない。」と開き直るようになった。

普通にいい子でいるよりも､悪い子であるほうが自分らしいと思ったのだ。｢模範的クリスチャン｣と思われる両親への反発もあった。

しかし､近隣で知り合いの牧師の子供が非行に走り､親が牧師を辞めさせられた話を聞き､「親の職業まで奪っては、まずい。」と､中途半端に不良のような生活をし始めた。

一方で､「私はクリスチャンなのに。」と自分を責める気持ちもあり､「変われるものなら、神の子供らしく変えてもらいたい。」という気持ちもあった。

中学３年の時､富山県高岡市の、牧師のいない小さな教会へ行く事を告げられ､「これを機会に､自分は変われるかもしれない。」と思った。

高校生になると同時に富山での新しい生活が始まり､慣れない言葉と文化に戸惑いを覚えた。

ずっといると思っていた岩手県の友達から離れ､自分は岩手県の人ではなくなり､富山県の人にもなりきれない､という孤立感に悩まされた。

そして、またも目立つような友達と仲良くなり､学校をサボったり､悪いこともするようになって、自分で苦しむようになった。

また､学校の先生が「キリスト教は､数ある宗教の一つ」と言われ､自分の信仰が単なる思い込みだったのではないか､と疑うようになってしまった。

牧師の子だからと言って、信仰を鵜呑みにはしたくなかった。そこで、「神様なんか､本当はいないんだ。」と考えてみることにした。

すると､すべてのことが本当に虚しく､何もかも嫌になってしまった。神様が本当は存在しないのなら､私は偶然に生まれ､ただ､死んでいくだけの存在。死んだ後､天国も地獄もないとしたら､生きている間だけが全て。

「それなら､悪いことをしたっていいじゃないか。」と、心の思うままにしてみたけれど､「自分の望むことをしてみてもこんなものか。」「世の中を楽しもうといっても､こんなものか。」と絶望感だけが残った。

やはり私は、神様がいなければ生きていくことすら出来ない、存在することすら出来ないと気づいた。

変わりたいと思っても､なかなか変わることが出来ない私は､悩んでいた。

｢もう､神様は赦してくれないだろう。｣と、途方に暮れた気持ちで､高校３年になる年、春のバイブルキャンプに参加し､聖書のメッセージを聞く機会が与えられた。

十字架にかかろうとしているイエス様を見捨て､｢そんな人は､知らない。｣と３度も裏切ってしまった弟子、ペテロのお話。

イエス様はペテロに、これから裏切ろうとしていることも承知で「わたしは､あなたの信仰がなくならないように､あなたのために祈りました。だから､あなたは立ち直ったら、兄弟たちを力づけてやりなさい。」(ルカ２２：３２)と言われた。

私は愚かな者で､長い間、神様を裏切り､悲しませ､親を悲しませてきた。しかし､弱さや欠点を承知の上で､イエス様はなおも愛し､期待して下さっていると知ったのだ。

｢これからは､自分のためではなく､このお方のために生きよう。｣と決心した。

そして、千葉県の｢東京基督教大学・神学部・神学科｣で４年間学び､卒業後は父が牧師をしている｢高岡バプテスト教会｣で児童伝道主事として４年間。

その後、石川県・聖書教会連盟・内灘聖書教会(当時・横山幹雄牧師)で『研修スタッフ』として１年間奉仕する恵みに預かった。

その間に出会った主人と結婚し､無牧の「額（ぬか）聖書教会」で５年間奉仕し､２００６年９月から同じ連盟の「泉野聖書教会」(石川県・金沢市)へ異動、現在に至っている。

同労者となった今でも､教会のこと､いろいろな場面
で両親に電話をする。

父は、優しく、甘いだけの人ではない。知恵と判断力､行動力､リーダーシップに優れている。

私たち３人の子供は､何か決断に迷った時､「お父さんはどう思う？」と､よくアドバイスを求めたものだった。

父は､子供の頃かわいがられて育ったのか､セルフイメージが非常に良い。常に「あなたもOK。私もOK。」で、少々のことには寛大だ。

罪を犯すのでなければ､基本的には、自主的に何をしても構わない。その代わり､自分も人にとやかく言われるのを好まない。

信仰と確信をもって自ら決断する。

｢お父さんの信仰に従っていけば､絶対に大丈夫だから。｣と､母はいつも私たちに言い聞かせてくれた。

あれほど「お母さんのようにはなれないし､なりたくもない!」と思っていた私が､いつしか同じように牧師夫人となり､二人の子供を育てている。

周りから見れば､当然の成り行きと思うであろうが､牧師の子供が信仰を継承し､献身の道を歩むことが許される割合は､意外と低い。

自分の子供には苦労をさせたくない､とか､献身させたくないと親心で考える人もいるようだが､父は、神に仕える人生の自由さ､素晴らしさを､身をもって示してくれた。

「こんなに素晴らしい仕事は無い。」と心から語り、｢子供には３人とも献身して欲しい。｣と願っていた。それは、押し付けでも､プレッシャ－でもなかったにも関わらず､様々な選択肢の中で､私たちはそれぞれに神に仕える人生を選んだ。

正しくは､主が選んでくださったのだ。

私が幸いな結婚に導かれ､夫が牧師として働いているその恵みは､驚くべきことであり、両親の信仰と祈りなしに､今の私はない。

　
　　｢父への手紙｣　

　地上の父よ。主があなたを祝福し､あなたを守られますように。この地でも長生きさせて下さるように。「父と母を敬え。」のみ言葉を実践したのですから、主が長生きさせて下さると信じます。

戦後の貧しい経験からでしょうが、「今しか食べられない。」という勢いで､甘いものを食べ過ぎるのは､やめて下さい。沖縄で､痛風のため歩けなくなったことを思い出して下さい。（それもまた、父らしいと家族は笑っています。）

どうか健康で、曾孫を抱く日が与えられますように。天国へ行ったら永遠です。それまで少しでも長く私たちと一緒にいて欲しい。またクリスマスにはサンタクロースの衣装を着て､鈴を鳴らして訪ねて来て下さい。泣いた孫もいたけれど、みんな楽しかった。

年末になると毎年、「今年は､今までで一番、最高の年だった。」と言っていた父よ。人生の終わりにも､「わが人生､悔いなし。最高の人生だった。」と言う事ができるように。

父を通して、一人でも多くの人が福音に触れ､一人でも多くの人が永遠のいのちを受けることができるように。私たち3人兄妹、みな献身して神に仕える人生を歩むことが出来て､本当に感謝です。力不足ではありますが､最善の人生だと実感しています。

地上の父としてお父さんが与えられ､本当に良かった。お父さんも､私たちが子供で良かったでしょう？もしも､もう一度人生が与えられたら､もう一度､お母さんと結婚したいんでしょう？（お母さんは､渋い顔。）

財産はなさそうだけど､永遠なる信仰の遺産をありがとう。生きている間に､この地上で言います。天国でも言います。「お父さんは､祝福の基です。本当にありがとう。」

今度は私たちから娘達へ､娘達からその子供達へ、信仰のバトンを渡す番です。

以上は、百万人の福音2007年6月号「娘、父を語る」に掲載された文章です。

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